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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)19号 判決

一 請求原因のうち、本願発明につき、その出願から審決の成立にいたる特許庁における手続の経緯、その発明の要旨及び右審決の理由の要点に関する事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるかどうかについて審究する。

(一) 本願発明と引用例の装置との構成について

1 本願発明の要旨によれば、本願発明の構成要件としてのパツキンは「環状」であること以外に何ら限定がなく、成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許公報)には、本願発明について、「リング状のパツキン8の断面形状は円形以外に多角形その他種々の形状に構成してよい。」との説明が記載されているので、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によつても認められるように、環状とは輪のように丸い形をいうものであることを踏まえたうえ、前出甲第二号証中の図面及び成立に争いのない乙第二、三号証を参しやくすれば、本願発明の要旨にいう「環状パツキン」は、中央に円形孔を有し、その円形孔から半径方向に幅をもつたパツキンであれば足りるものと認めるのが相当である。ところが、成立に争いのない甲第七号証(引用例)によれば、引用例のパツキン(弾性ワツシヤ部材12)は、中央に円形孔を有し、平らな主体部分34と、これより幾分肉厚の内側環状部分35と、主体部分の外周縁に軸線方向に垂れ下つたフランジ部分36とからなる円板状のものであることが認められるから、引用例のパツキンが、本願発明の環状パツキンに当たることは明らかである。原告は、この点につき、本願発明は、著しく簡単化された構造の締付装置においてパツキン部材の圧縮変形による多点密封を行うことを目的とするものである以上、パツキンの断面形状は円形又は多角形に準じるものに限られ、引用例のパツキンのように、中央に穴をあけ、凹凸字状の複雑な異形をした円板状のものと相達する旨を主張し(請求原因四(一)の1(イ))、前出甲第二号証によれば、本願発明の目的が原告主張のような密封を行うことにあることが認められるが、本願発明の要旨と本願明細書における前記説明を併せ考えれば、本願発明が右のような事項を目的とするからといつて、パツキンの断面形状が円形又は多角形に準じる形状に限らるべきいわれはないので、原告の主張は理由がない。

次に、本願発明において、ねじの頭部により押圧される被締付部材に環状パツキン嵌入用の凹部が設けられていること、ここに「嵌入」とは圧力を加えてはめ込むことであることは当事者間に争いがないが、引用例のパツキンの36部分もまた、ねじ軸に直角方向のワツシヤ周縁による密封を行うため、金属ワツシヤ部材11の凹部(20、24部分)の中に、押圧、圧縮されて、はめ込まれるものであること、すなわち、嵌入されるものであることは後記3において認定のとおりである。原告は、この点につき引用例中、パツキンは凹部に、「なるべくは接着される」との記載によると、引用例はパツキンが右凹部に嵌入される場合を想定していない旨を主張し、(同(一)の1(ロ))、引用例に右記載があることは当事者間に争いがないが、前出甲第七号証によつても、右記載が原告主張のような趣旨には解されないのみならず、むしろ、右記載は、パツキンが前記のように凹部内において圧縮される場合にも、パツキンの材質、寸法の選定上の過誤に備えて、ボンドするに、しくはないという趣旨に解するのが相当であるから、原告の主張は理由がない。

2 次に前出甲第二号証によれば、本願発明の説明の一部として、「蝶ねじ型ねじ頭部9から突出している……軸部10はその先端部分の雄ねじ部を部材2のねじ孔2´にねじこまれる。」との記載があるが、ここに「軸部10」というのは、ねじの頭部を除いた部分でねじ部10´を含んだものと解されるから、本願発明の要旨にいう「軸部」は、頭部付ねじの頭部以外の平滑な円筒部とねじを切つた雄ねじ部とを併せた部分を指称するものと認めるのが相当である。一方、引用例のねじの頭部を除いた部分が全部ねじを切つた雄ねじ部であることは、当事者間に争いがないが、本願発明の「軸部」が雄ねじ部をも含んだ技術的意味を有するものである以上、引用例のねじの軸が本願発明の「軸部」に当たり、この点に構成上の相違がないことは明らかである。

3 前出甲第七号証の引用例には、「この発明の主要な目的は、弾性ワツシヤ部材の開口が、ねじ軸のねじ部の周囲を密封するように歪められる箇所において、ワツシヤと共働する固定部材であるねじ軸よりも直径が小さくなつているような改良弾性複合ワツシヤ構造を備えることであり、他の目的は、ねじ軸の中心軸線に対して直角に配置された平らな表面に対してワツシヤの周縁によつて第二の密封が確実になされるような改良複合ワツシヤ構造を提供するにある。」旨、「内側環状部材35は、通孔18に関して同軸的に位置しており、かつ、より小さい直径の、中央に配置された開口39を区画する。開口39はかなりの長さをもち、軸線方向に配置された円筒面40を形成する。この円筒面40は、変形可能で、かつ開口39が応力状態にない場合の直径よりも十分大きい直径を有する挿入ねじ軸への密封を形成することが可能である。」旨、「第5、6図に示されるように組み立てられた状態において、ボルト44又は他の固定部材は開口39の直径よりも大きく、通孔18の直径よりも小さい直径のねじ軸45を備えているので、緊締が行われると、部材35が歪んでねじ軸45のまわり、プレート中の開口のエツジ46、その他の面の密封を有効に行い、部材35はかなりの領域にわたつてかなりの厚さの肉厚のものであるため、過剰となつた弾性材料は半径方向に外方に主ボデー34の領域へ押圧されながら、プレート47中の開口のかなりの公差に自動的に適応される。ボルト44による締付の間、ボルトの頭部は上面19と接触し、連続的な圧縮力はフランジ36を歪ませて、金属ワツシヤ部材11とプレート47間を密封する。更に、主ボデー部分34の下のスペースはフランジ36を構成する材料の過剰流動するものの貯蔵所を提供する(なお、原告は右スペースをもつて、部材35の下面から漏洩した内容液の貯蔵所である旨を主張する((同四(二)の(ハ)))が、前後の文章との関連等からして、本文のように解するのが相当である。)。」旨の記載があり、これに、同号証中のその他の記載及び図面を併せ考えれば、引用例のパツキンは、金属ワツシヤ部材11、プレート47、ねじ頭部及びねじ軸部の各面に囲まれた空間内において、右各面からの押圧、圧縮により、その各面と接触する箇所において密封を行うものであることが認められるから、引用例のものが、本願発明の前掲(Ⅳ)及び(Ⅴ)の要件を充足するものであることは明らかである。原告は、この点につき、パツキンの35部分が、ねじの頭部44により、また、雄ねじ部45の谷部により押圧されることはなく、せいぜい、パツキンの34部分が金属ワツシヤ11の凹部に接着している箇所とパツキンの36部分が圧縮される箇所の密封が行われるだけである旨を主張する(同(一)の3、4)が、右認定を覆して原告の右主張を採用するに足る証拠はない。

(二) 本願発明と引用例の装置の効果について

l 本願発明が原告主張の前掲四、(二)1の(イ)ないし(ホ)のような締付装置における密封の効果を奏することは、前出甲第二号証によつて、これを認めることができるが、本願発明と引用例の装置との構成に関し、さきに認定、判断したところに徴すれば、引用例のものにおいても、右と差異のない密封の効果が生じることは明らかである。

2 本願発明のパツキンも、引用例のパツキンも、ともに弾性を有するものであること(この点は、弁論の全趣旨によれば、当事者間に争いがない。)と、これによる、さきに認定の密封の状態とを併せ考えれば、両者のパツキンの復元性に原告主張(同2)のような差異があるものとは認めがたい。

3 また、本願発明のパツキンは、前認定のように、原告主張の形状以外に種々の形状のものを含むのであり、その形状の如何によつては、市販のものでは賄いえず、製作費が高く、普遍性のないものもありうるから、引用例のパツキンとの間に原告主張(同3)のような普遍性の差異は認められない。

(三) してみると、本願発明と引用例の装置との間には、原告主張のような構成上及び効果上の相違を認めることができず、なお、引用例の刊行物が本願出願前公知であることは、弁論の全趣旨に徴し原告の認めるところであるから、本件審決が、本願発明は引用例のものと構成要件において一致し、効果においても差異がないので、特許法第二九条第一項第三号に該当するとした認定ないし判断に誤りはないといわざるをえない。

三 よつて、本件審決に違法があることを理由に、その取消を求める原告の本訴請求を棄却することとする。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

<省略>

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